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長い四時間の授業とつかの間の給食が終わると、教室の中は水紋が消えた様に落ち着きを取り戻した。昼休みになると大抵、教室のざわめきの源となる人たちは体育館とか校庭に行くから、教室に残ったのは読書やお喋りをする女子が大半だ。
「それじゃあ、早く見せて」
「うん、ちょっとまってて」
だけど、僕と木村は場違いなぐらいテンションが高かった。僕は狭いロッカーに無理矢理入ったサブバックを勢いよく引っ張って、それから机の上に置いた。いつもより少し膨らんだ黒いバックが小さく揺れる。
チャックを開けたのは木村だった。普段、話している時の笑顔とは違う、サンタさんからのプレゼントをあける幼児みたいな表情をしている。
ジジジと音を立てて、チャックが完全に開いた。
吉田広樹大辞典。
その七文字は朝と全く変わらない顔をして、小さく金色に輝いていた。
「うわっ、マジなんだ」
木村は眼孔を大きくして、その本を手に取った。
「うん、僕もびっくりした。玄関の前に落ちてたの」
「中身は見た?」
「いや、まだ見てない。本当に辞書なのかも分かんない」
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