プロローグ

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「そこで今日の道徳の時間では。いま渡した紙に、みなさんのーー」  いやな予感がした。 「ーー夢を書いてもらいます。」   やっぱりだ。教室にまたざわめきが流れた。  コツコツとペンを叩きつける音が教室中に響いている。でも、僕は教室で唯一、その音を鳴らしていない。ペンを握ってもいない。ただ、目の前の白紙を見つめているだけだ。  コツコツコツコツ。リズミカルに繰り返されるその音が、脳内を埋め尽くす。  自分だけ、何も書いていない。  コツコツコツコツ。細かく響くその音は、体中にまとわりついて僕の体を刺していく。  自分だけ、真っ白のままだ。  とりあえず、何か書かないといけない。もうすぐ授業が終わってしまうし、白紙で提出する訳にもいかない。それまで放置していたシャーペンを握って、先端を紙に置いた。  みなさんの夢を書いてもらいます。先生のゆっくりとした口調が脳内ではっきりと再生された。でも今はかたい音が邪魔をして、僕をせかしている。  夢って、どの程度のだよ。  それがまったく分からないまま、ここまで来てしまった。将来の夢なんて結構頻繁に聞かれる質問だが、中学校に入った辺りから自信を持って答える事が出来なくなっていた。     
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