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1「わだかまり」
「京介、お前何て書いた?」
授業が終わってすぐ、木村が僕の所まで走ってきた。休み時間になると僕達はいつもこうやって、クラスの高ぶりから外れた、教室の隅に集まっている。
「んー、まあ、適当にね。」
「なんだよそれー、つまんねーなー。」
さっきの僕はぎりぎりまで追いつめられた結果、「安定した職業」と雑な字で書いた。先生が皆の用紙を集めていた時、前の席の人のきれいな文字が目に入って、少し「やばい」と思った。でも、直しはしなかった。
「お前は何て書いたの?」
そう聞くと、彼は待ってましたと言わんばかりに腕を組み、
「ドラフト一位に決まってんだろ。」
と言った。少し大きめの声で。
不思議と、木村は全然恥ずかしく見えなかった。むしろ立派だなと感じた。自分の夢を持っていて、ちゃんと努力もしていて、柱みたいに見えた。なにがあっても倒れない、大きな柱だ。
「良いなあ。」
「え? 何、良いなあって。お前も野球やりたいの?」
「別にそういうわけじゃねえけどさあ、なんか、そうやって自信持って言える夢があるのって良いなーって。」
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