1「わだかまり」

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 自分の中に溜まっていた何かドロドロしたものが、すこし出て行った気がした。でも、別にすっきりはしなかった。  木村は 「まじで? ありがと」 と口角を上げると、続けて 「でも、お前は勉強が出来るじゃん。それならなんにでもなれんじゃね?」 と言ってくれた。なんにでもなれる。まるで将来の安定が保証されているかのような一言だが、何かになるには、それに見合った努力が必要だ。僕にはその努力をする自信もない。その「何か」に自分の人生をかけて良いのか、分からなかった。 「そうなのかなぁ」 「うん。ま、よく分かんないけどな」 「なんだよそれ」  教室は、今日もにぎやかだ。 「あ、次数学じゃん。プリントやってねえ」 「まじ? やばいじゃん。結構解くの面倒だったよ」  まじかー。木村はそういうと、遠くの自分の席へ走って、教室の賑わいの中へ溶けていった。そして僕だけが、溶けないで残っていた。     しばらくして、チャイムが鳴った。数学の先生はいつも少し遅れてくるから、おかまいなしにお喋りを続けている人もいる。そういう人を見ると、度胸があるなと思う。前もそうやって社会の先生に怒られたのに。多分、脳味噌の作りが違うんだな。     
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