1「わだかまり」

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ドアの横にあるスイッチを押すと、片づいている僕の部屋が真っ白の光で照らされた。  そろそろ肩が限界だ。教科書や、あまり授業で使わないくせに分厚い資料集がぎっしりと詰まったカバンを肩から落として、ドン、と鈍い音を鳴らす。この音は、自分が学校から解放されたことを知らせる鐘のようなものだ。  ああ、今日も疲れた。軽くなった体の力を抜いて、ベットに倒れこんだ。顔が布団に埋もれ、目の前が真っ暗になる。  体は軽くなったはずなのに、いつもみたいに気持ちよくない。  再来週の五月三十日まで迫った、中体連。三年生たちにとっては、これが最後の大会になる。だからどの部も気合いを入れて練習している。勿論、僕もその流れに乗っかって毎日練習を続けているのだけど、大会当日が近づけば近づくほど、温度差を感じるようになった。  皆気合いを入れている、キャプテンの俊介もいつも以上に熱心にやっている。自分だけ、それについていけなくなっている。正直、なんであそこまで頑張れるんだ。「めんどくさい」、数学のあとに胸をかすめた言葉の爪痕が、今でもひりひりと痛む。  こんな事は昔から考えていたけど、当然皆に胸の内を明かした事はない。部の雰囲気を下げてしまうし、大会前はなおさらだ。  なんとなく足並みそろえて、僕はここまできた。人それぞれに考え方があって、それは個性って呼ぶんだろうけど、それに忠実に生きていこうとすれば足並みが一気に崩れるような気がして、怖い。  僕みたいな人はこの世にいっぱいいると思う。ばれないようにあちこちを確認しながら、周りと一緒に人生を歩んでいる人が。  まあでも、部活が終わったらそれも終わる。そう思うと、気分が少し軽くなった。とりあえず、この疲れ切った体をなんとかしないと。今日はずっとブロックを練習した。最近になって、やっと相手のスパイクを止める時の感覚をつかんできた。とはいっても、僕は試合に出されないだろうけど。  ベットの上で足をのばすと、ぎしぎしと音が鳴った。今にも崩れるんじゃないかと、心配になる音だった。
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