悲しみのそばに

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 その死神は疲れていた。人の死に触れることに。  いつ頃からそんなふうになったのか、本人も覚えてはいない。ふと気が付けば、心の中に何か暗くて冷たいものが浮かんでいて、どうしようもなくそれを持て余すようになっていた。その正体がようやく分かるようになったのも、ごく最近のことだ。  死の傍らには、いつも嘆きがある。死に行く者の悲鳴だけではない。残される者の痛みや悲しみが、荒れ狂う濁流のように重く押し寄せる。それは死神の心に鈍く爪あとを残し、今までにはなかった迷いや葛藤を生み出して行った。 ――死とは、何なのか?  永遠などというものはあり得ず、始まりがあれば終わりがある。それは自然の摂理であり、ただ単純な事実でしかない。しかし、人は誰しも当然のように、死にそれ以上の意味を求めようとするのだ。  生と死は表裏一体。死の意味を考えることは、生の意味を考えることでもある。どこかで誰かがそんなことを言っていたが、死神には理解のできないことだった。  あるいはいつの日か、自身の存在に終焉が訪れた時、少しは人の心というものを知ることができるのだろうか。癒えない傷と答えの出ない問。それらを重い鎖のように引き摺りながら、死神は今日も人知れず、ただただ誰かの死にそっと寄り添う。
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