第1章

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私が死んだ理由? 事故死だよ。  六十過ぎてパラグライダーなんてやめろって妻には言われたけどね。私に言わせれば、六十を過ぎたからやったんだよ。若いときは食っていくのが精一杯で、遊びに行く余裕なんてなかったから。  パラグライダーをやれる場所が、自分の生まれ故郷のそばにできたってのも魅力だった。思い出の場所を見下ろして空を飛ぶのはさぞ楽しいだろうと思ったわけだ。  実際、それは楽しかったよ。懐かしい学校や、魚を釣った河が模型のように遠くに見えるんだ。足下には、駆け回った森が緑色のクリームのように広がっている。  でも、操作の仕方が悪かったのか、風が変わったのか。それとも何か、別の力が働いたのかも知れない。パラシュートが急にしぼんで、私は森にむかって落ちていった。そして、木に叩きつけられた。  枝や幹はクッションにならなかったのかって? ああ、なったのかも知れないな。だって、骨折もそんなにしていなかったし、直接の死因は体を強く打ったことじゃないからな。  幹から、釘が生えていたんだ。その釘が、私の首を貫いた。  なんであんな木の幹に釘が打ちつけられていたのかって? その理由は私がよく知っているよ。  その女の子は泣きわめいていた。確か、名前は×××と言ったかな。その泣き顔がサルみたいで面白くて、子供だった私は、もっと泣かそうと、その女の子を突き飛ばした。もちろん、私だけじゃない。悪友何人か、その悪ふざけに加わっていたよ。  女の子は突き飛ばされた拍子に、抱えていた小さな人形を落っことした。それはなんでも、貧しい生活のなかその子のお母さんが奮発(ふんぱつ)して買ってあげたものらしかった。大事なその人形をなんとかすれば、もっとその子を苦しめられるだろう。  私はその人形をすばやく奪い取って駆け出した。 「返してよ!」  女の子が追いかけようとしたが、悪友に掴まれて阻まれた。人形の名前を呼んでいたような気がするが、なんといったか覚えていない。  私はポケットに人形を突っ込むと、近くにある木に登り始めた。女の子の力では登れないくらい高く。  そして枝と幹の間に尻を入れ、足で幹を挟んで体を支えた。ポケットから人形を取り出す。それと、建築中の家から持ってきた中指よりも長い釘、そして金づち。そしてその人形を釘で打ち付けた。呪いの藁人形のようにね。
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