雨粒が叩くは

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「傭兵団で、どうにか生き残っただけなんだが」  ゾマニィが息を吐く。  一時、動揺を見せていたゴブリン共が、数を頼みに押し寄せて来る。 「全く。変な名前が付いたものだ」  と、ゾマニィは直刀を振るう。間合いに入ったゴブリンが薙ぎ払われた。 「変? どこがじゃ。立派な通り名じゃと思うが。変というのはの――」  と、そこでドワーフが口籠る。態とらしく、足元のぬかるみを気にした。 「なに? なにを言おうとした?」 「……なんでもない」 「へぇっ」  笑みを唇に含んだゾマニィの直刀が、踏み込んで来たゴブリンの右手を落とし、返す刃で喉を裂いた。 「名前を訊いていいか?」 「……さて」  雨に目を細めながら、ドワーフが戦斧を振り下ろす。得物と頭を叩き割られたゴブリンが、妙に高い声で啼いた。 「いいじゃないか。な・ま・え」 「ゴイン。……ゴイングード」  しょうがない、という体でドワーフが名乗った。 「やっぱりそうだ。銀礫のゴイン。酒場で聞いた通り、面白いドワーフ」 「ホビットじゃあるまいし、儂は投石なんぞせんのに。礫とは心外じゃ」 「突っ込んだきり、戻って来ないからじゃないか? 誰かが回収に行かないと」 「ふん」  ゾマニィとゴインは、同時に手近なゴブリンを斬り伏せた。ゴインだけ、ぬかるみに足を取られそうになる。 「雨でさえなかったら、助勢を求めたりはせん」  ゴインが恨めしげに空を見やった。 「銀は貴重だ。頼まれなくても、回収するかもな」  実際、ゾマニィは、助けに入る寸前だったのである。彼女は、ゴインの戦いっぷりを気に入ったのだ。  ゾマニィは直刀を、ゴインは戦斧を振るう。振るう度に、と言っていいぐらいにゴブリンの死骸が雨泥に突っ伏した。次第に、ゴブリンの方からは距離を詰めなくなった。 「頃合いか――」  ゾマニィの動きが変わった。別の生き物が乗り移ったかのよう。足場の悪さを気にもせず、次々とゴブリンを斬り倒していく。 「おい……」  抵抗する間もなく散っていくゴブリンに、情け心が浮かんだゴイン。しかし、声を掛けた時には、最後の一体の首が刎ねられていた。 「少し、やり過ぎじゃないかの」  見たところ、成熟したゴブリンばかりだった。彼らの住処には、幼体のゴブリンがいて、父母の帰りを待っていたかもしれない。
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