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5、石島徹の証言
男の名前は石島徹。三十五才のフリーターだった。
突然手帳を突き付けられ、パトカーに乗せられた石島は困惑すると同時に、どこか苛立っているように見えた。
ふてぶてしく椅子に掛ける石島。向き合うのは遠山刑事だ。
「なんなんですか。殴ったのは謝ってもう済んだでしょ」
「今回はそのこととは違う件です。…先日の事件、ご存じでしょ?若い女性が暴行の末殺された事件」
「ああ、ニュース見ましたよ…それが?」
事件のことに触れても、彼の表情は変わらない。何とも肝の据わったやつだと、遠山刑事は呆れているようだった。
咳払いをして気を取り直す。
「おまえ、傷害事件の際、DNAを採取されたよな?」
「ああ」
石島は九日、傷害事件の現行犯で捕まった。当初は前歴もないことから早めの釈放も考えられていたようだが、その際担当した警官によりDNAを採取されている。
今回の逮捕の決め手は他でもない、そのDNAだ。
「おまえのDNAが犯人のものと合致したんだよ」
「は?一寸待てよ」
石島の声が裏返る。聴取を記録する一宮は、彼の反応を意外に思った。先程までの態度と違い過ぎるのだ。
遠山もそれを感じたようで、「何か言いたいことがあるみたいだな」と、石島の主張を聞く姿勢を見せた。
「俺は何もしてない」
「下手な嘘はよせ、証拠もあるんだぞ」
「本当だ!いや、本当です。信じてください」
徐々に敬語になる。下手に出てでも彼はこの事件と関わりたくないようだ。そんな印象を一宮は受けた。
「事件があったのは七日の夜でしょう?俺その日映画に行ってました」
「なんだと?」
「チ、チケットもあります、店員さんに聞いてもらえば」
遠山の顔が曇る。石島の鬼気迫る様子に何か感じ取ったようだ。
「一宮」
「はい」
名前を呼ばれ、一宮は外に出た。森本に石島のアリバイを調べさせるためだ。
森本に事情を話しながら、一宮は一抹の不安を覚えていた。森本の表情もそれを示す。きっと二人の心情は一致することだろう。
もし石島の証言が正しかったら
そんな不安を抱きながら、一宮は森本を見送った。
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