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男は母が憎かった。
自分を捨てた母親。彼女は父を裏切り、自分を捨てた。そして何より自分を生んだ。どうせ捨てるのに。いらないのに。自分を生んだ。
そのせいで自分がどれだけ辛く痛く苦しい目にあうことになるのか、彼女はきっと考えなかったのだろう。
何故、彼女は自分を生んだのか。これはこの男の一生の疑問だ。
母親に捨てられたその時から、男は自分の存在意義を失った。
男は生きる理由を欲した。そして男が最初に見つけた生きる理由。それは母親への憎しみだった。
いつか母を殺してやろう。
それだけを目的に生きていた。
しかしある時、母はすでにもうこの世にいないのだと知った。途端に、男は自身の生きる目的を失った。
それでも男は死ねなかった。
死ぬ勇気は、なかったのだと思う。けれど彼は、目的もなく生きていけるほどの卑怯さも持ち合わせてはいなかった。男は新しい生きる理由を、目的を探した。
そしてそれは再び、【女】に向く。
男は恋をした。初めての恋だった。彼女と過ごすこと、それを新しい目的にしてもいいとさえ思える、そんな恋だった。
しかし彼女は、そんな男を拒絶した。女からすれば、それは些細なことだったのかもしれない。けれども男にとってそれは、何よりの裏切りだった。
あんなに愛したのに、信じたのに。
男は、彼女を恨んだ。
彼はその人生で、二度目の裏切りを受けたのだ。二つの愛を失ったことを意味した。
男は悟った、女は自分からすべてを奪うのだと。女は裏切り者だ。憎むべき存在だ。
そうして男は【女】を憎むようになった。
自分を苦しめる、あいつらは悪魔に違いない。
男は立ち上がった。行かなければならない。
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