2、時計

1/5
前へ
/31ページ
次へ

2、時計

「強姦した上に殺人?穏やかじゃないね」  そう言いながら隆司は一宮の目の前に紅茶を置く。種類はわからないが、柑橘系のツンとした香りが一宮の鼻に届いた。  一宮は紅茶を受け取ると、難しい顔で口を開く。 「当り前だ、事件なんだから」 「そりゃそうだ」  何が楽しいのか、隆司は笑いながら一宮の向かい側に座った。 「なんか良いことでもあったのか?」  自分の頬に指をやり、隆司に彼の顔が笑ってることを指摘する。すれば「ああ、ごめん笑ってた?」ととぼけたように謝罪を告げた。 「不謹慎だったね、反省する」 「それはいいよ。何かあったのか?」 「たいしたことじゃないんだけど、兄さんが来るの久しぶりだなあって」  気が抜ける。いくら大したことではないと前置きされてはいても、ここまでどうでもいいことだとは思わなかった。 「そんなことか?久しぶりって言っても先週来たと思うんだけどな」  息を抜く一宮に「そうだっけ」なんて言いながら、隆司は自らの紅茶を啜る。相変わらず口は緩んでいるように見えた。  一宮はもう気にするのを止め、話を合わせることにした。 「まあ、昔は毎日一緒だったんだから、一週間合わないってのが変に感じるのかもな」     
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加