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「そうかも」
一宮と隆司は義理の兄弟である。早くに母親を亡くした一宮を、隆司の父が引き取ったことから、今まで彼らは兄弟として過ごしてきた。
義兄弟ではあっても年が近いこともあってか、二人は友達同士のように仲が良い。
数年前、彼らの父親が亡くなったことを機会に、彼らはそれぞれの暮らしを始めることになったが、それでも二人は今なおこうして定期的に互いの家へ訪れている。
「兄さん忙しかったもんね、ここのところ。その事件のせいかな?」
「そういうことだな、昨日も徹夜だったし」
そう言うとあくびをかみ殺してまた紅茶に口をつける。そんな兄に弟は労いの言葉をかけた。
一宮は藤代警察署の刑事課に所属する刑事だ。
そんな一宮が今回抱えている事件、それは先日起きた婦女暴行殺人事件だった。
事件が起きたのは藤代市にある人気のない小さな公園だった。そこで一人の女性の遺体が発見されたのだ。
女性の名は池田佳代子。三二歳の会社員だった。会社からの帰宅途中に運悪くも暴漢に襲われてしまったようだ。
彼女の死因は頸椎圧迫。素手による絞殺だ。素手といっても手袋をはめていたようで、指紋や掌紋の類は発見されなかった。
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