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DNA鑑定はとても有意義な手掛かりであり、正確な証拠物件だとされているが、実際のところそう簡単なものではない。日本で犯罪者のDNAを採取し始めたのは最近のことであり、そのため元データ自体があまり存在しないのだ。照合しようにもその照合元がなければ意味がない。
「あれ」
無気力に顔だけ持ち上げた一宮の目に、見覚えのあるものが目に入った。隆司の視線も合わせて彼の目先に移動する。
そこにあったのは一昨日隆司が買ったばかりの掛け時計だった。
兄の声と視線に「ああ」と、隆司。
「時計でしょ?壊れちゃったみたいでさ、一昨日新しいのに換えたんだ」
「一昨日?もしかしてそれ、ミウラヤで買ったか?」
一宮の言葉に、隆司は「そうだけど」と答えながら驚きを示す。その目はなぜわかったのかと訊いているようだった。
「俺も買った、俺は先週買ったんだけど」
「そうなの?」
「俺のも壊れちゃってさ、仕方ないから新しいのをと思って」
被っちゃったなと一宮は笑った。
二人の言うミウラヤとは市内で一番大きいホームセンターである。壊れる前に使っていた時計もミウラヤで買ったものだ。
前の時計も同時期に買っていたのだから壊れる時期が重なる可能性もなくはないだろう。しかしそれを差し引いても、示し合わせたわけでもないのに同時期に同じ時計を買ってしまうことなどなかなかあることではないだろう。
「あるんだなあ、こんなこと」
「まあ、兄弟だし」
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