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3、木村幸三
木村幸三は浮かれていた。
ぎりぎり残る理性が言う。今日は飲み過ぎだ、もう帰れ、と。
飲み過ぎて良いことが起きたためしがない。
以前上司から勧められるまま浴びるように飲んで、次の日には留置所にいた。記憶は全くなかったが、どうやら真っ直ぐ帰宅したつもりが道路に半裸で寝ころんでいたようだ。
目覚めたときには見事に風邪を引いていた。おまけに会社に連絡が行っていたようで、怒られはしなかったが良い笑いものにされた。
まだ理性が生きてる分、まだましだ。それでも翌日は頭が痛くて起きられないことだろう。わかってはいたが、今日は気分が高揚していた。
今日は久々に仕事がうまくいった。ここのところ不調続きで自分も同僚も根も絶え絶えの状態だった。やっと解放された。いや、まだまだ問題は山積みとも言える。だけれどこんな月の綺麗な夜くらい飲んでもいいじゃないか。
冷たい空気。それでも体は熱かった。
酔いを少しでも覚まそうと歩いているはずなのに、歩くことで酔いが余計に回った気がする。
木村は空を見上げる。このあたりも外灯が増えてきたもんだと、意味もないことを考えていた。
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