第一章 五年振り、始まりの日

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朝焼けに染まる田舎道を、一台のバイクが走り抜ける。辺りに重低音を響かせる暴れ馬は、その身で風を切り、水を得た魚の如く疾走する。 その手綱を握る騎手は、漆黒のトレンチコートに身を包み、これまた黒いソフト帽、革手袋を身につけ、自身の愛馬に身を任せていた。 やがてバイクは、街に入った。太陽が顔を出しかけているというのに、まだガス灯に明かりが点っている。点灯夫が寝坊でもしているのだろう、と思いながら、彼は道を急いだ。 暫く走った後、彼は巨大な建物の駐車場に、自分の愛馬を滑り込ませる。人口三十万を超えるこの都市の治安を一手に賄う警察組織の城、警察署である。 早速中に入り受付で用件を伝え、受付嬢の案内に従う。通りすがりの人々は皆彼の姿を見るなり顔に恐怖の色を浮かべ、逃げる様に道を空ける。無限かとも思える階段を登りきると、重々しい樫の木の扉が彼を出迎えた。ここが署長室らしい。 受付嬢に促されるまま中へ入ると、如何にも健康はつらつとした若者の姿が目に入った。カーテンの閉め切られた暗い部屋とは、対称的な姿である。掛けてくれ、との言葉に従い、その通りにする。その彼がこちらに向かって、言葉を投げた。 「久しぶりだね、戦争以来か」 「どういう風の吹き回しだ、お前が警察署長なんざ」 「どうもこうも無いさ。物は試しに試験を受けたら、トントン拍子でここまで」 「ひでぇ言い草だ」 お互いひとしきり笑いあった後、かしこまった様子で、署長が口を開く。 「折り入って頼みがあるんだ、ロベルト・パークス大尉」 「なんだ、バリー・ベルナドット警察署長殿」 「で、どんな仕事だ。わざわざ退役した、しかも訳ありの俺を使うんだ、それなりの仕事なんだろう?」 署長室の椅子に掛け、煙草をふかしながら彼は聞く。 「昔馴染みって理由もあるけどね、まあそうかな」 そう言うとこちらを試す様な顔をして、一言。 「敵地から囚われの姫を救い出す、救国の騎手になってみる気は無いかい、ロベルト」
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