神様

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その男は、狂人にしてはあまりに平凡な男だった。零細企業に勤める技術職の男。勤続七年、役職は主任。成績は大したこともなく、かと言ってそう悪くもない。 独身だが、三年付き合っている彼女がおり、来年に結婚予定。資産はそこそこにあり、両親も健在で特に金持ちでも貧乏でもない中流の家。 つまり、あまり嘘をつくことが得意ではなく、嘘をつく理由もないような男。 結婚予定の彼女には聖跡のことは話しており、彼女はあまり他人に話さない方が良いと忠告していたようだ。 その彼女は正しい。こんな話、普通なら狂人の戯言と一笑に付され、正気を疑われるのがオチだからだ。 俺は定刻通りに、約束の喫茶店に入店した。 男はまじめな性格という情報通り、既に入店して俺が来るのを待っていた。 「古畑さんですか?」  俺が声をかけると、スマホを弄っていた男が顔を上げて俺を見た。 目が合った瞬間、男の様子が変わった。 「待っていたぞ。さあ、座りたまえ」 「何だと?」  俺は眉根を寄せて男を睨みつけた。 この俺に、尊大な態度をとっていることが理由ではない。 それまで、報告通りだった男の態度が、俺と目が合ったその瞬間から、まったく違うものに変わったからだ。 言葉だけではない。男から感じる気配そのものがまるで別人にすり替わったかのように思えた。 「お前は誰だ?」  俺は無意識にそう問いかけていた。 今、目の前にいるのは、俺が会いに来た「神と会った男」、古畑充……ではない。 男は、ニヤリと笑った。 「流石だな。わざわざ会いに来た甲斐がある」  男は手ぶりで、俺に早く椅子に座るよう促した。 俺は視線を男に向けたまま椅子に座る。 男は頷き、語り出した。
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