第一章:寄生体“A”の噂

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第一章:寄生体“A”の噂

「最近、近くの国で“A”が出たんだって」  杞紗がいつものように職場で作業をしていると、同僚の芹がそんな話をふってきた。  “A”という随分と省略した名で呼ばれるそれは、宿主の命を奪う寄生虫だ。  いや、虫ではないのだから、寄生虫という表現は誤りかもしれない。  隣国で“A”により多くの犠牲が出たことは、杞紗も聞き及んでいた。たちの悪い変種に襲われた場合、国自体が滅ぶこともあるらしい。 「こんな時、この職場ってホント嫌になるよね」  その気持ちは杞紗にも分からないではない。だが、それはおおっぴらに言って良い台詞ではなかった。  国民の職種は、国家繁栄のために定められるべくして定められたものだ。職種にもよるが、一度決まれば生涯それは変わることはない。体さえも仕事に合わせて作り変えられ、多くの者は命が尽きるまで同じ職場で働き続ける。  いつからそのような制度になっているのか、杞紗は知らない。遠い昔の祖先はそうではなかったと聞いたことはある。だが、今を生きる杞紗達にはそれが当然なのだ。
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