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全てはこのN国の繁栄と存続のために。それが当然のことなのだ。だから、定められた職場に文句などなどあってはならない。
杞紗はそのことを、それとなく態度で伝えようとしたが、どうもうまく伝わらなかったらしく、芹は相変わらずの調子で続けた。
「だってさー、まさに国境じゃん。“A”が侵入してくるとしたら、きっとここからだよ? しかも、近くの国で出たってなったら、そこからこっちに来る可能性大だし。私ら別に軍属ってわけでもないのに、危険の真っ只中! どうかしてるよ」
「……それはでも、仕方ないんじゃない? 確かに私達は軍属じゃないけど、この仕事は軍以外の誰かがやらなきゃいけないし、仕事の内容上、国境にいなきゃいけないのも仕方ないし」
杞紗達は、酸素を輸入する過程の一部を担っている。
いつの時代からか、あるいは最初からそうなのかもしれないが、国外には存在するという酸素を発生させる生物がN国には存在しない。
しかし杞紗達が生きていくためには当然ながら酸素が必要で、だからN国には酸素を輸入し全国各地への輸送網へ受け渡す設備が備えられている。国外からその設備へ至る途中の一部を、杞紗達は管理しているのだ。
杞紗はそれを、名誉なことだと思っていた。
酸素の輸入無くしてN国は成り立たない。一部に過ぎないとはいえそれに携わり、国家の役に立てるのだから、これを名誉と言わずして何と言おう。
だが、芹の言う通り、危険と隣合わせなのも確かだった。国外からの輸入に関わる以上、国内には存在しない危険なモノと接する可能性も高いのだ。先刻から話題に上っている“A”もその一つになる。
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