134人が本棚に入れています
本棚に追加
その日の授業が、千歳は何も頭に入らず、とても長く感じた。
放課後が近づくにつれてだんだんと落ち着かない様子を、亮太に笑われるくらいに千歳は集中していなかった。
帰りのホームルームが終わるなり、和彦が声をかけてくる。
「千歳、コレ」
「なに?」
いきなり目の前に突き出された袋に、千歳は何だかわからず聞き返した。
「俺から二人への仲直り記念のプレゼント」
「ちょっと、カズ! それって……ぐぉっ!」
何かを言いかけた亮太は、和彦の脇腹への肘鉄により、見事に撃沈した。
そんな亮太を気にすることなく、和彦は話を続ける。
「あっ、今は開けるなよ、後でな」
「?……ありがとう」
終始笑顔の和彦が怖くもあったが、とりあえず千歳はそれを受け取りカバンへとしまった。
「まあ、結果はもうわかってるけど……」
「頑張って会長を落としてこい!」
笑顔の和彦と、なんとか復活した亮太の激励を受けて、千歳は正門へと向かった。
そして正門へと着くと、すでに優弥が立っていてその珍しい光景に、周りの生徒達が振り返っている。
「待たせてゴメン」
謝りながら千歳が走り寄ると、優弥は不機嫌そうな顔をした。
「遅い……お前が呼んでおきながら」
「だから、ごめんなさいって」
何だかいつも通りの態度が戻りつつある優弥に、千歳も自然と接することが出来た。
「じゃあ、帰ろうか」
「ああ……」
優弥と二人で正門を通る。
それはこの学園生活で初めてのことだった。
周りの生徒が二人を遠巻きに見ているのが痛いほど感じる。
優弥が迎えの車ではなく、歩いて門を出るのも珍しければ、千歳と一緒に歩いていることも珍しいのだろう。
自分達はエッチの時以外は、殆どといっていいほど接触がなかった。
それだって授業中や放課後の人の少ない時間帯だったし、連絡も優弥から一方的に送られてくるだけだった。
みんなの前で、堂々と優弥と並んで歩ける。
それがなんだか、千歳はとても嬉しかった。
最初のコメントを投稿しよう!