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決定的だったのは、修学旅行の準備中。いつも通りまとまるまでずいぶん時間がかかった話し合いのあと、「佐伯、ありがとな」とわざわざ声をかけてくれたのだ。
お礼の理由が思い当たらない私が、ぽかんと黒田くんを見返すと、
「あいつらなぜか佐伯の言うことは聞くから。佐伯がいてくれてマジでよかった」
と柔らかく笑いかけられたのだ。
落ちた。
そんなの無理だ。落ちちゃうよ。
彩香ちゃんと沢村くんが私の意見を聞いてくれるのは、口下手な私に同情してくれてるからだろうけど、それでも黒田くんにそんな風に言ってもらえると、自分がなにかいいものになったみたいで嬉しかった。
それから、私の頭の中は黒田くんのことでいっぱいになっちゃって。修学旅行が早く来てほしいような来てほしくないような。そんなもだもだした気持ちを抱え続けた結果がこの寝不足だった。
「なんか悩みごと?」
妙に突っ込んでくる黒田くんに困ってしまって、私はとりあえず首を振る。
どうすればあなたと仲良くなれるか考えてて眠れませんでした、なんてまさか言えるわけもない。
「恋愛関係、とか?」
静まり返った教室で、ひそやかに爆弾を落とされて、私はパッと顔をあげてしまう。
「あたりだ」
黒田くんの目が細められて、薄い唇が弧を描く。
「佐伯って好きな人いるんだ?」
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