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ブラックコーヒーに塩
ふわりとコーヒーの香りがして、意識が呼び戻される。
目を開けて、自分が今まで寝てしまっていたことに気が付いた。
机に突っ伏していた体をのそのそと起き上がらせると、すぐ前の席に苦笑している男の子ーー黒田くんが座っていた。
「……え?」
寝起きの頭は状況をすぐに理解してくれない。
ぐるりとあたりを見渡すと、窓の外は赤い。時計は18時少し手前をさしている。他の同級生は誰もいない。
もう一度黒田くんを見つめる。
夢かと思ったのだ。寝る直前まで考えていたのは、彼のことだったから。
不意にチャイムがなって、はっと我に返り、自分の置かれている状態に気が付いて、急に恥かしくなった。
無意識とはいえ、黒田くんと何秒も見つめ合ってしまった。
私がぱっと俯くと、黒田くんの苦笑が濃くなる気配がした。
「佐伯、授業終わってからずっと寝てたんだよ。大丈夫かなと思って部活のあとに見に来たんだけど」
案の定だった、と言って黒田くんが缶コーヒーを差し出す。
コーヒーの香りの正体はこれだったのか。
「そんな、悪いよ」
「いいって。自分の分も買ってきちゃったし、飲み終わるまで付き合って?」
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