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運ばれてきたオムライスと血の海パスタ(正式名称は激辛パスタ)を前に、俺はしばらく固まった。
オムライスは、そりゃあもう卵がプルプルで心底美味しそうだったのだが、パスタの方は本当に地獄の窯の如きひと皿だったのだ。
「うっっ!オエっ、げっほげっほ、え”っ!?」
「あーきたきた。うまそー」
パスタが俺の半径三メートル圏内に入った瞬間から俺の喉は使い物にならなくなった。においだけで喉が痛みを訴えてきている。
むせる俺とは真反対に、志樹先輩はうきうきとフォークを手に取る。
なんだか俺が大げさにリアクションしているみたいだが、おかしいのは志樹先輩だからな。みんな俺の立場だったらむせてるからな。
「えぇ……」
「いただきます。シグも食いな」
さきに手を合わせた志樹先輩にスプーンを手渡され、強烈な匂いで味の薄れたオムライスに手を伸ばした。
「…ふー、うまかった。ごちそうさま」
「ごちそうさまでした。オムライスは美味しかったです。オムライスは」
昼休み終了のチャイムなどとうの昔に鳴ったが、落ち着いて完食した俺たちは、食べ終わっても席を立つことはなかった。
ちなみに、あの激辛パスタを一口もらった感想は『痛い』である。味なんてわかるはずもなく。
「…で、先輩。おごってもらったからには、しっかりお話聞きます。どうなさったんですか」
「うん、生徒会の歌姫のこと」
う、歌姫?
志樹先輩から放たれた予想外の単語に、目を瞬かせる。
そもそもうちの学校、”姫”はいないぞ…と、言いたいところだが、姫ではないが歌うことが好きな先輩なら、心当たりがある。
「…隼先輩のこと、ですか?」
「ああ、やっぱり知ってんだな」
どうして風紀の先輩が、生徒会の隼先輩のことを気にかけるのか。そもそも、歌姫とはなんなのか。
疑問を片っ端からぶつけていこうと口を開きかけたとき。
「おい、昼休みはおわってんだぞ。なにしてんだ」
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