お前が噂の

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 歓声の大きさにひとり納得して、碧衣さんの話に耳を傾ける。  …傾けていたのだが。 (…なぜ足音がこっちに向かって…)  なぜか近づいてくる気配と足音に若干気を取られる。碧衣さんもそれには気づいているはずなのに、話をやめようとはしない。  そしてついには。 「…ずいぶん楽しそうだな、お前たち」    たった一、二回しか会話したことのない俺でさえもわかるくらい、常とは違う、明らかに冷たく棘のある言い方。  …あれ、俺ってなんかしたっけ。思い当たることがありすぎてよくわからん。とりあえず春野には冷たくしてるしな…。  と、思ったのもつかの間、思わぬところから思わぬ反撃。 「そりゃあお互い様だろ、会長サマ。毎日毎日毛玉のケツ追っかけてるらしいじゃねえか」  驚くほど冷淡な声。割と長い付き合いの俺でも数回しか聞いたことのない声だった。しかも春野の言われようがひどい。  気づけば、周囲の野次ですらもこちらを遠巻きに見つめながらも誰かが息を呑む音すら聞こえそうなほど沈黙している。  確かに、二人の間には俺が介入する隙も無いようなピリついた空気が流れている。  でも、今の空気を変えられるのは二人の間に挟まれてる俺しかいないわけで。 「…だーっ、もう、なんですか二人共!そういうのは俺を挟んでやんないでください!」  急に立ち上がった俺に、二人共さっきまでの完全な無表情からあっけに取られたような顔に変わった。それに伴って周りの空気も少し和らいだ…気がする。 「…そーだな。悪かった悪かった。どうせコイツはお前に用があんだろうし俺が口挟む場面じゃなかったよ」  そして、碧衣さんの苦笑によって、食堂内は完全にいつもどおりに戻った。  …良かった。内心胸をなでおろしながら会長の顔を見上げる。長身め。 「ああ、お前に伝えたいことがある。放課後、生徒会室に来い。大事な内容だから、必ずくること。以上だ」 「えぇ…はあ…」 「なんだその反応は。絶対来いよ」 「わかりましたよ…」  …まったく嫌な予感しかしねえ。  
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