皐月の夜

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 あの朝会があったあと、俺に対して表立ってなにかをしようとする生徒はあまり…、というかいなかった。この学園の生徒の頂点である会長の言葉はやはり重いらしい。  …ま、それはあくまで”表立って”であって、地味ーな嫌がらせはあとを絶たない。  こう、他の人に言うほどのものでもないんだけどなんか気分悪ぃなー、みたいな。    例えば、靴の中敷きに画鋲が針を下向きにぶっ刺さってたり。  まったく怪我はしないんだけど、怪我しないからって十個くらい刺さってて流石に気分悪かった。 「…で、この書類は会長の印と風紀の印をもらうこと。いいですか?きいてませんでしたとか言われても二度はいいませんよ」 「……ん!?え、ぇぇ、わかってますよ、聞いてましたよ…」 「じゃあよろしくおねがいしますね」  いかん、今朝のこと思い出してたからまったく聞いてなかった。このところ生徒会が学習合宿に向けて風紀と連動しながら忙しいから、ぼうっとしてる暇なんてないのに。  …素直に聞いても、あの副会長が教えてくれるわけねえよな。  ひとり書類片手にんんん…と唸ると、ひょこっと鶯色の頭が現れた。 「しぐ…こまってる…?」  副会長の目を気にしてか、ひそひそ声でデスクの下に隠れるようにしゃがんで話しかけてきた、隼先輩。  身体が大きいからしゃがんでも隠れきれてないのかわいい。 「…困ってますね、猛烈に」 「どした…?」 「この書類の説明、ぼーっとしてて聞いてなくて…すいません、どうしたらいいですか?」  俺が同じようにしゃがんでデスクの影に隠れながら、そう尋ねると、なぜか少し嬉しそうに相変わらず途切れ途切れの声で説明してくれた。  まだそのしゃべり方には不慣れな俺だが、なんとかすべて理解することができた。 「なるほど、じゃあ会長の印と風紀委員長の印をもらってくればいいんですね」 「…ん…せつめ…へたくそ…めんね…」  しょんぼりと耳を垂らして(幻覚)謝ってくる先輩に不覚にもきゅんとした。かわいい。  実家の近所のでっかい犬思い出した。かわいかったなあ…。 「いえ、こちらこそ、俺が困ってるの、気づいてくれて嬉しかったです。じゃ、風紀のとこ行ってきますね」 「ん…、いって…しゃい」 「ありがとうございました、隼先輩」  そういって、生徒会室のドアを思いっきりぶち開けて、書類片手に風のごとく飛び出していった。
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