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〈NO SIDE〉
風のように書類片手にひらりと、小さな身体でいとも簡単にデスクを飛び越え、生徒会室を飛び出していった時雨を眉を潜めて見送った鼓は、デスクの影からむくりと出てきた隼を軽く睨みつけた。
「隼…あまり元宮を甘やかさないでください」
どうやらバレバレだったようだ。
鼓が気づかないわけはないし、教えてあげたとバレれば怒られるのはわかってはいたが、後輩という存在が可愛くてしかたない隼は咎める声に少しむくれた。
「…だ、て…」
「だってもクソもありません」
「クソ…いってな…」
どうしてかイライラしている鼓はいつもより口が悪い。
そんな様子を見ていた昴は、面白いネタを見つけたとばかりに、チェシャ猫のようににたりと口角を上げ、自分のデスクから立ち上がった。
「どしたの副会長、そんなにピリピリしちゃってぇ」
「昴は自分の仕事を終わらせなさい」
「そんなこといわずにさぁ~、ほんとは副会長もはやたんと同じであの子のこと可愛くて仕方ないんじゃないの~?」
はやたんこと水篠隼は、マスクをつけて半分隠れた顔をこっそりほころばせた。
自分たちにはまともに後輩がいたことがなく、急にできた後輩を彼、鼓が可愛がらないわけがないと知っていたから。
双子は生意気すぎてもはや後輩ではないし。
「俺はかわいーコウハイだと思うけどなぁ?ねぇ、かいちょお?」
唐突に振られた会長は、書類に向けていた目線を鬱陶しげにあげた。迷惑そうな顔。
顔に『巻き込むな』と書いてある。
「なんだよ、てめーらさっさと仕事しろ」
「そんな事言わずにさぁ、どうおもってるの?」
「…ま、仕事は思ったよりもできるやつみたいだな」
さっさと答えないと解放してもらえないと悟った会長は、みんなが納得しそうなニュアンスで手短に返答する。
内心では満足のいく答えじゃねぇな、と思いつつもゆるい声で副会長に昴は歩み寄った。
「ほぉらー、会長も気に入ってるってさ!素直になりなよぉー」
「素直にってなんですか、もし仮に私が元宮のことを後輩としてかわいがっていたとしても、あなただけにはいいません。その手に隠してるスマホがあるかぎりはね」
「…ろくお…?」
冷たく蔑んだ目で昴が後ろ手に隠すスマホをにらみ、書類をまとめにかかった。
隼は気づいていなかったようだが、鋭い副会長にはバレていたようだ。
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