皐月の夜

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〈時雨SIDE〉  生徒会室を飛び出したはいいが、普通に考えて会長に印もらってからのほうが効率よかったな、と後悔する。  でも、わざわざ戻るのも面倒なのでそのまま風紀室へ向かうことにした。  走ると風紀委員の花瀬くんに文句いわれるので、賢く早足で風紀室を目指す。 「シグシグーっ!」 「んごっふぉお!」    …ラグビー部にタックルされたかと思った。  でも、この呼び方と、人にタックルをかますというふたつから、振り向かずとも誰がいるかはなんとなくわかった。 「だぁかぁらぁ、…って、ひとり?」  まぁた双子か、と思いつつ振り向いたが、いたのは桃色のアホ毛をぴょこぴょこ揺らす、片割れだけだった。  思わず、言おうと思っていた文句もどこかへいってしまった。 「そだよー、刹那は疲れたから帰っちゃった」 「ふぅん、珍しいな、二人が別行動とか」 「そういうこともあるんだよ、僕たちだって別の個体なんだから」  水色の方は刹那か、じゃあ目の前にいる桃色髪は永遠だな。  おばかな双子なのに、こうしてたまにマトモなことを言うから反応に困る。  こういうのは適当に、「まあ、そうだな」と流しておくに限る。  姉からの情報によると双子にも闇があるパターン大いにあるらしいし、触らぬ神に祟りなしっていうし。 「で、それはそれとして、永遠さんはなんで俺についてきたの?」 「あれっ、もしかして僕が生徒会室からずっとついてきてたの、気づいてたの?」 「気配がしたから。まさか突然タックルされると思ってなかったけどな!」  恨みがましくまだじんじんする腰をさすりながら言うと、永遠は悪びれる様子なく「ごめんごめーん」と謝罪する。まったく誠意は感じないがな。 「んー、僕たち仕事終わってるし、シグシグについてったらおもしろいこと起きるかなーって!」 「俺はトラブルメーカーか」 「え?そうでしょ?」  可愛い顔で「違うの?」って言われても。  俺にそんな気はまったくないからノーコメントで。 「…まあ、どうせ印もらうだけだしなにもないだろうけど」 「ほらほらぁ、早くはいろ!」    無邪気に俺の腕を引っ張って、到着した風紀室へ入るよう催促する。  うーん…同い年なのになんだこの弟感。 「はいはい、今入りますよー…」  弟かわいい。これで強烈タックルさえしなければ。
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