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その夜とまた一昼夜、山を逃げながら、父の指示した小屋を目指しました。
幸い、時期的に夜も気温はしのぎやすく、山には、
兄弟だけが知る、水と少々の果実の生る場所もありました。
獣に遭わなかったのも幸いでした。
アオは、歩きこそフラフラこそしていますが、持久力は不思議とあり、ぐずることもなくついてきました。
山際を松明を持った人影が行く手をよぎることがあって、肝が冷えましたが、そのあたりの山は父とよく歩き回り、抜け道や比較的安全に休める場所をよく教えてもらっていたのでしのげたのだと思います。
もうすぐ父の言った猟師小屋というときになって、急に追っ手の気配が増え、あたりが殺気だってきたような気がしました。
下の道に松明がいくつも見え、人の声が大きく響いてきました。
シオの心臓が早鐘を打ち、アオの手をつかんだ手が震えました。
小屋を諦めようとシオは思いました。
山の反対側には湧き水のある休める場所があったことを思い出し、そこに至る抜け道へと下り始めました。
やや歩きやすい抜け道へ出て、ほっとした次の瞬間、アオが嬉しそうに
「お…ば…」と前を指差しました。
そこには、アオによくお団子をくれた、村のおばさんが松明を持って立っていました。
「アオちゃん、お腹すいてる…?お団子、食べんね…?」
彼女は疲れたように微笑み、そう言って優しくアオを手招きしました。
アオはうなずき、シオの手を放し、おばさんに駆け寄ろうとしました。
おばさんは松明とは反対の後ろ手に持っていた何かを持ち上げましたが、それは団子でなく山刀でした。
彼女は泣きながら謝りました。
「ごめんね。うちの子ね、おとといから急に熱出して…体、真っ赤になって。
何も食えんで吐いて。こんな、小さくなってしまって。あんな元気やった子が。
なんで?よくなったのに。ねえ?なんで?かわいそうやろ?こんなになってしまって。
ごめんね。ごめんね。たすけてくれんかな…」
シオはかろうじてアオの肩を掴みました。
そして泣きながらアオを引き寄せようとした彼女の手から、
アオを引き離し、抱き寄せました。
おばさんはシオに目をうつし、さらに涙を流しました。
「うちのだけじゃないの。どこの子も。おじいも、今度は若いおかんも、おとんも、急に炭火みたいに真っ赤になってあかんようになって。たすけて。ごめんな。でもたすけて」
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