その1

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体を折り、そのまま、彼女は泥道に臥せって泣き続けました。 その肌は、松明に照らされたせいではなく真っ赤で、水に潜ったように汗にまみれていました。   シオはじりじりとアオを抱え、彼女から遠ざかりました。   そのとき、背後から、首筋をひやりと冷たい手で撫でるような声がしたのです。   「お前は、大丈夫だ」 振り向くと闇に溶け込む着物を着た、白く光る肌の、背の高い細身の人が立っていました。 男のようでも女のようでもありました。髪も闇に溶け込んでいましたが、不思議な光沢のある長い髪と肌で、少し青白く光って見えました。 表情や顔立ちはよくみえず、いっそうこの世のものではなく思われました。   「お前の父は約束を守った。だからお前だけは病で死なぬ。他のものにとっては、かの肉の 力はもう失われた」 声が耳の中でこだましました。 「やくそく」   つぶやいたシオに青白い男は告げました。 お前たちが回復する為に食べた肉はアオの母のものだと。 彼女とアオは人魚だと。   お前と村人の命を救うため、その子の母は死んだのだから、 その子供であるアオの命は、この村の者が命をかけて守ると。あの夜約束したのだと。 シオの父が村人を命がけで説得し、その約束をさせたのだと。 アオの母がその約束を了承し、死んでいったのだから、他の人魚は手出しをせず見守ってきたと。   男は続けました。   「しかし今やわれらと二つ足はすでに相容れず。 その子ら母子の結末を見届けようと、近くにひかえていた俺も、 もう、地上を引き揚げる。これより先、我らはお前たちと会わぬよ」 男はそれから、アオに向かって手を伸ばしましたが、アオは怯えて兄の首にしがみつきました。 男はアオを見て思案し、やや突き放したふうに笑いました。 そしてシオに言いました。 「この山を超えればもう追手はこれぬ。彼らは、病が表に出つつあるから。 お前たちが生き延び、いつか、その子供が人間のもとでは生きられぬかたちとなったとき、 我らのもとに帰りたくなったときには、我らは、受け入れてやろう」
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