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告げ終わると、男は繁みの暗がりの中へとするりと、長い魚が水へ入るように飛び込み、そのまま見えなくなりました。
男の消えたあたりの後方、はるか向こうから、人の声とかすかな灯りがやってくるのが見えました。
シオは、うずくまり、うめくおばさんを道に残し、アオを抱えて自分も繁みの中へと滑り込みました。
そのままあちこちをひっかけ、転んだり、傷を作りながらも山肌を駆け下り、
再び人が通るための道が見えたところでいったん止まりました。
人の話し声と気配を感じたのです。
あたりが安全だと感じられるときを待って、
河にまで駆け下り、その先に、渡れる小舟でも見つけられたらと思っていました。
腕の中のアオがみじろぎし、まっすぐシオを大きな目で見つめ、訴えてきました。
「シオ、おとう。おとう、たすけて」
シオはアオの口にそっと手のひらを当てました。
「しーっ」
「おとう」
「しー」
アオをなでてやりながら、シオはふと空を仰ぎました。
それまで空を覆っていた雲が少し途切れ、鏡のような満月が山を、地上を、照らしていました。
父たちが人魚の女を殺した夜のような、
以前人魚の男からの警告を聞いた夜のような、
煌々とした月でした。
月の光を浴びながら、シオの身にひとつの真実が沁みてきました。
そう、僕たちは二人きりの兄弟だということが。
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少年はやや黙り込んだ。
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それからですか?
そうですね、彼らは発見されたとは伝えられていないので、逃げ切ったと思います。
子供二人で、どのように生き延びたかと思うと、それは苦難もあったでしょうが、
おそらく、こうだったと思います。
時代がすぐに激動の時代になり、この近隣の街も大きく変わり、
また、そこでは大火などの大騒ぎもあったこともあって、身元のわからない子供二人というのが、そう特別な存在ではありませんでした。
シオは、村から逃げたとき、あの時代としては、もうそこそこ下働きもできる年になっていましたから、
流れ者の年の離れた兄弟として、なんとか人の情けにもすがりながら糧を得て、シオはアオを育て、暮らしていったのでしょう。
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