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その昼、シオは、
熱にうなされながら、朦朧とした意識の中 で、村の男衆がなにやらただならぬ様子で自分の家の前に集まり、据わった目をしてどこかへ出かけていったのを感じ取っていました。
男衆の中にシオの父もいました。
まだ多少は意識が持ちこたえていたシオは、父がどこへ行ったのかと心もとなく思いました。
シオの家は、父ひとり子ひとりでした。
満月の夜でした。
村の男衆が、そろって出かけていったのは、
村と外の境にある、山の入り口に空いている、小屋ほどの大きさの洞でした。
そこに、女がひとり捕らえられていました。
女の背中には何本もの槍が刺さり、女をうつ伏せに地面に縫いとめていました。
洞の中は灯りもほとんどなく暗いのですが、それでも目に入るはずの
真っ赤な血の色のかわりに、女の周りはぬめる水のようなものでびっしょりと
濡れていました。
はだけられた上半身の、その肌は青白く発光し、
女の周りをほのかに照らしていました。
肌は鱗でおおわれたようにつやつやと光り、全身が水でぬめっているのです。
濡れた髪は長く女の頭部と背中を覆い、黒のようにも緑のようにもみえたそうです。
ええ、女は人間に、人魚と呼ばれているもののひとりでした。
でも、長く海草のような髪と光る肌、そして色素以外は、かたちは普通の人間と同じだったそうです。
そんな生き物たちが集まって生活していた村が、かつて、山を下った海沿いの近隣にあったのですよ。
人魚の村が。
ええ、あれらは、昔、自然に、我々のとなりに暮らしていたのです。
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