0人が本棚に入れています
本棚に追加
シオの弟となったその子はアオと名づけられ、シオ一家は、
病を境に、今まで暮らしていた家を離れ、やや村のはずれに新たに小屋を建てて、
生活を始めました。
アオはやや知恵遅れ気味の子供でした。
数年たっても、言葉をほとんどしゃべれず、あーとか、うーとか、不思議な音をたてるだけでものを伝えようとするのでした。
それでも、兄がわりであるシオにアオはなつき、シオの名前だけは呼べるようになりました。
体もあまり育たず、歩いてもすぐに転ぶ子でした。
ふらつきながらも一心に自分の後を
追ってくる様子は、世話が焼けましたが、かわいかったのです。
村人の大人たちは表面は今までと同じながら、やや遠巻きに兄弟を見ていました。
それから数年は何事もなく過ぎ、気候に恵まれて、漁も順調、
山の実りも、ごくわずか作っている作物の実りもよく、村は穏やかでした。
アオもしだいに村の子供の中になじんでいきました。
村のガキ大将は、兄のシオと仲良しだったのですが、これがアオをからかって、泣かせてしまうと、その母親が息子をこづいて、アオに雑穀でつくった団子をくれたものです。
ただ、男たちは、アオを見るとき妙に暗い、畏怖する目になることがありました。
父はといえば、アオを見るとき、何か遠いものを見るような、
自分が見たことのない、うかがい知れない目をすると、
シオは、不思議に思うことがありました。
更に数年がたちました。アオが来てから四年ほどたったころだと思います。
やはり言葉や足腰が弱く、よく転ぶ子供のままでした。
あの年と同じ流行病が、また近隣の町や村で流行りだしたのです。
しかし、この村では、近隣が病に苦しんでも、再び同じ病にかかる人は出ませんでした。
最初のコメントを投稿しよう!