その1

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シオの弟となったその子はアオと名づけられ、シオ一家は、 病を境に、今まで暮らしていた家を離れ、やや村のはずれに新たに小屋を建てて、 生活を始めました。   アオはやや知恵遅れ気味の子供でした。 数年たっても、言葉をほとんどしゃべれず、あーとか、うーとか、不思議な音をたてるだけでものを伝えようとするのでした。   それでも、兄がわりであるシオにアオはなつき、シオの名前だけは呼べるようになりました。 体もあまり育たず、歩いてもすぐに転ぶ子でした。 ふらつきながらも一心に自分の後を 追ってくる様子は、世話が焼けましたが、かわいかったのです。   村人の大人たちは表面は今までと同じながら、やや遠巻きに兄弟を見ていました。   それから数年は何事もなく過ぎ、気候に恵まれて、漁も順調、 山の実りも、ごくわずか作っている作物の実りもよく、村は穏やかでした。   アオもしだいに村の子供の中になじんでいきました。 村のガキ大将は、兄のシオと仲良しだったのですが、これがアオをからかって、泣かせてしまうと、その母親が息子をこづいて、アオに雑穀でつくった団子をくれたものです。   ただ、男たちは、アオを見るとき妙に暗い、畏怖する目になることがありました。 父はといえば、アオを見るとき、何か遠いものを見るような、 自分が見たことのない、うかがい知れない目をすると、 シオは、不思議に思うことがありました。 更に数年がたちました。アオが来てから四年ほどたったころだと思います。 やはり言葉や足腰が弱く、よく転ぶ子供のままでした。   あの年と同じ流行病が、また近隣の町や村で流行りだしたのです。   しかし、この村では、近隣が病に苦しんでも、再び同じ病にかかる人は出ませんでした。
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