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兄弟の父はそれから兄弟をできる限り自分の目の届く範囲に置いて置くようになりました。
畑仕事に出るときも、山菜や水をとりにいくときも、なるべく三人一緒か、村の子供ら全員でと、アオとシオだけにならぬように気を配っているのでした。
父の目が次第に血走ってくるようで、シオは不安でした。
ただ変わらず自分を無心に見上げるアオを見て、何事もないに決まっていると、なんとか心を落ち着けたのです。
その年の夏の終わり、村に祭りの夜がやってきました。
子供たちは祭りでもらえる餅をもらいに、村のちいさなお社の前に集まっていました。
シオがアオの分まで餅を受け取り、振り向くと、自分の着物の裾をつかんでいたはずの
アオがいませんでした。
胸騒ぎがして見回すと、数人の男達がアオを抱えて、道を走り去っていくのが見えました。
追いつけないとみて、シオはすぐに家に走り、父に知らせました。
父は床下から狩りに行くときの猟銃を出し、山刀も腰に差すと、シオを連れ、走りました。
二人は、昔人魚を捕らえた、あの洞へと向かいました。
その道みち、父はシオに言いました。
アオは自分で逃げて山にいるかもしれない。もし拐われるようなことがあったら、
そいつの手に針を突き刺して山へ逃げろと、針を隠し持たせ、
それだけはなんとか教え込んだ。
万一アオを見つけたら、二人でもう二つ遠い山に逃げろ、と。
そして一度だけ三人で行った、その山の中にある小さな猟師小屋を目指せと教えました。
そしてシオを、山へ突き放し、アオを探せと命じて、自分は洞へと銃を構え、駆けていったのです。
シオは父の後を追おうとしましたが、父に怒鳴られ、仕方なく山へと入りました。
アオと何度も来た山菜のある場所や、水の湧く道を回り、探してみましたが、アオを見つけることはできませんでした。
知っている場所を一巡りして、ますます不安も募り、やはり父の行った洞へ行こうとしたときでした。
アオがシオのいた藪の中に飛び込んできたのです。
「アオ」
シオはほっとしてアオを抱きしめました。
髪も着物もぐしゃぐしゃで泥だらけ、すり傷だらけでしたが、大きな怪我もないようでした。
「シオ」
アオは見たことのない必死な顔をして、シオの着物をつかみ、口をぱくぱくさせました。
シオがどうしたと問うと、
「おとう」
アオは一生懸命そう言いました。
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