その1

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「おとう、たおれた。シオ、おとう、たすけて」   シオがアオと駆けて、山の入り口の洞にたどりついたとき、 村の男たちが集まって、洞の入り口から、松明を手に、ほうぼうへ散っていくのが見えました。 男たちはかろうじて父が逃したアオを追って、付近を捜索しに出たのです。 男たちが散っていったあと、兄弟は、洞の奥にある、 子供だけが通れるほどのすきまから、洞に入りました。 中には、血溜まりの中に倒れている父がいました。 父はアオを捕らえ、殺して連れ去ろうとする男たちと戦い、瀕死の重傷を負ったのです。   父は、シオたちが必死に呼び、抱き起こすと、目を開き、 彼らをみとめて、苦しい息の下から、逃げろと言いました。   そして、おまえたちは二人きりの兄弟だと。   洞の入り口のほうから、村からの新しい手勢の話し声がしました。 自分たちを探す、新しい人手が来るようです。   シオは死にゆく父を残し、アオを連れて洞の奥の秘密の穴から出て、走りました。 そうするほかに、なかったです。
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