猿鬼と葬送士

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「ちょっとまた変なことしてるんじゃないでしょうねえ、制服でも構わず側転するの悪い癖、パンツ見えそうになるし……」 「今日は体動かしてないからなまってるのよ」そう言って黒く長い髪をかきあげると、甘い芳香が、野乃の鼻をくすぐった。  三人の会話と美空のストレッチの音の振動がなかったところに、どこからか響いてくる胸を締め上げる切ない旋律のピアノの音があたりの空気を揺らし始めた。逢魔刻を知らせる音色。 「時間のようです」とDBは言った。サングラスをずらし、左目をテーブルの上の煙草の箱でも掴むかのような気軽さで抜き取り、自分の上に投げた。すると顔には目隠しをして、鼻が高く顎のラインはシャープで、凛とした顔つきの赤と黒と青の色違いの花嫁衣裳を身に纏った三体の女性が姿を現した。三体の花嫁は直立不動で立ち胸元で手を組み淑女然としていた。上に放り投げられたDBの左目は、サッカーボールくらいの大きさになりぐるぐると回転をはじめ、独特な文様が浮かび上がり、瞳は赤くなった。DBが契約しているグライアイの目。照魔機能を有し、排除対象を見つけ出した。 「あ、上です」  風切り音と共に落下してきた何かが野乃の左手を引き裂いた。「いったあ」と言いながら野乃は体を捩りライフルを撃ち、反動を利用して陸橋の上から飛び降りた。「あいつも許さないし、DBも美空も許さない。」八つ当たり気味にぶつぶつと文句を垂れ着地と同時に巨大で持て余し気味であったM&H術式弐型のライフル形態から壱型の二丁のサブマシンガン形態に変形させ、ピンクのヘッドフォンを頭から乱暴に外した。掻き乱すギター音が漏れる。その間に野乃の左手はなにもなかったかのように修復されていた。  上を見つつ許さない、許すまじと念仏のように唱え横の金網に足をかけ頂点まで登り、金網の上で加速して一気に陸橋の欄干まで飛び上がった。欄干に立った時、四体の排除対象を補足した。三体はもう、DBの青の花嫁の思念硬糸で捕縛されていた。野乃は目に入った標的に間髪入れず二丁のサブマシンガンをぶっ放した。弾の勢いで糸で絡めとられていた三体は、体が削り取らるように吹き飛んでいく。
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