蝶と夕方

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しげしげと見つめていると、これは蝶ではないのでは、という考えがふと湧いた。蛾なのではないか?なぜかは全く分からないのだが、蝶ではないと言う心の囁きは強くなる。  気がつくと、目の前の蝶に手を伸ばしていた。しかし蝶はするりと手から零れ落ちていく。それでも蝶は遠くへは行かず周りをひらひら漂っている。おや、と思いまた手を伸ばすのだが、結局飛んで行ってしまう。そのまま蝶は手の届かぬところまで行ってしまった。私はひどく裏切られたような気がした。  悔しくて別の蝶に狙いを定めた。数匹がまたふらふらと腰ほどの高さを飛んでいた。ゆっくりと近づいてどれが取りやすいか吟味する。  獲物を決め、がばりと思い切り手を伸ばすと、一度で掌の中へ包むことができた。思いのほか簡単に捕まえられたことに驚いたが、それ以上に喜びが大きかった。笑みすら漏れそうになりながら、翅が痛まないように拳を開き親指と人差し指でつまむように持ち替えた。  捕まった蝶は翅を動かそうと、微かに体を震わせるが指先には何も伝わらない。蝶は諦めたのか、すぐに身動きを止めた。おかげで私は観察がしやすくなり、ゆっくりと全身を見つめることができる。まずは蝶の顔を見た。私は昆虫の専門家でも何でもないので、蛾と蝶の見分け方は分らない。おぼろげな知識で、蝶と蛾は触角の形が違うことを思い出した。たしか蛾は触角が木ノ葉のような形になっていて、蝶は直線のはずだ。目の前の蝶の触角はすらり一本だけ伸びていた。
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