10人が本棚に入れています
本棚に追加
画面から、赤ん坊の泣き声が聞こえた。それをあやすような男女の声。とても幸せそうな声。
後ろを振り返ると、両親に抱えられる赤ん坊が映っていた。
画面が切り替わる、三輪車に乗る女の子の姿が映し出された。その後ろを父親が歩く。得意げにピースを送る少女。
画面が切り替わる、小学校に入ったばかりの女の子、小雨が降って桜が散る中、校門の前で初めて着た制服を見せびらかす。その横には、泣きそうな顔をした女性。
ここに映っているのは、子供の頃の私だ。
「人の一生はまるで映画なんです。悲しいこともあったりする」
画面が切り替わる、葬儀のシーン、最愛の祖父の遺影が飾られて、先ほどの少女……私はずっと泣きじゃくっている。
「それでも、映画とは区別にならない程の感動がある。私は映画の神様だから、それを知ることはできない、だから君の映画のような人生を、ここまでの人生を覗かせてもらいたかった、悪く思わないでくれ」
父が、祖父の柩を焼くボタンを押す映像で、私はもう耐えられなくなった。声を上げて泣き出した。
「君と出会えて、君の映画を見ることができて良かった。私は人生というものを好きになった。だから君も映画を好きになってほしい」
画面が涙で滲みながらも切り替わる。大学受験、合格番号を探し当ててはしゃぐ私と母。
「君の人生は、まだまだ続く。悲劇も喜劇も、まだまだ続くんだ。だけどそれは、沢山の登場人物のおかげということを知ってほしいのですよ」
父、母、妹……親友、先生、かつて付き合った男子……いろんな人の顔が走馬灯のように映し出された。
「そしてもう一つ。映画はいつか終わってしまう。それは人生も同じです。けれども、それで良いのです。どこかでスタッフロールが流れないと、映画は完成しませんから」
祖父、祖母、遠い親戚、飼っていたハムスター、事故で死んだ友人……私が失ったものも、映し出された。
私は嗚咽しながら、老人の話を聞いていた。
最初のコメントを投稿しよう!