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ふわりと沈み込むソファ。
コーラとポップコーンの香り。
辺りが暗くなり始めると、隣に座る夫が、小声で話し始めた。
「君は本当に映画が好きなんだな」
彼は小脇に抱えた紙袋から、ポップコーンを二つ取り出し、口の中に放り込んだ。
「また言ってる」
私は少し笑った。
「言ったじゃない。私は昔、映画館の近くに住んでいたからだって」
「それだけの理由なのかい。だって君は、恋愛映画、ミステリー、ドキュメンタリー、ホラーも見る。第一、今日はアニメ映画じゃないか、まだ子供もいないっていうのに」
夫と私のチケットには、夏休みの特別上映と銘打たれた子供用パンフレットが付いてきた。
「あら、嫌だったかしら?」
「いや、そんなことはないさ」
今日見る映画の内容は全くわからない。テレビで放映されていたアニメシリーズの劇場版、ということなのだが、二人ともアニメを見たことがない。
「ほら、もう始まるわ」
スクリーンには、来月放映される映画の予告が映った。
夫には、嘘をついている。
私が映画好きな理由は、映画館の近くに住んでいたからだけではない。
映画館の神様に出会ったからだ。
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