神様の見る映画

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上京して初めて借りた部屋は、成人向け映画館の上にあった。 駅から近い。大学も徒歩圏内。大きな台所と居間。トイレと風呂が別々。そして、素敵な外装と内装。恐ろしく良い物件を見つけた。 しかし、不動産屋が言うには、この部屋の下はナイトシアターになっており、夜は部屋に映画の音が漏れてしまうのだそうだ。ほとんどの人がすぐに引っ越してしまい、家賃が格安だという。 部屋にまで映画の音が漏れるなら、タダで映画が聞ける、そんな甘い考えで部屋を借りた。 しかし……いざ部屋を借りてみると、マンションの一階にある映画館の掲示板には、なんと女性の裸体がありありと示されたポスターが二枚貼られていた。もぎりのいるはずの入場口受付には、誰も立っていない。入り口の扉は鎖で閉じられて札が掛けられていた。 『18歳未満の立ち入りを禁じます』 深夜になると、なるほど、あの不動産屋の言っていたとおり、映画の音声……女優の声が聞こえてきた。どんな音声が流れているか、想像には難くないと思う。 大学の友人に話すと、今すぐ引っ越せ、不動産屋を訴えなさい、と色々言われた。しかし、頻繁にお詫びしたいと菓子折りを持ってくる不動産屋を見ると、何だか居た堪れない気持ちにもなった。 それに、恐ろしい話かもしれないが、二週間ほど住むともう慣れてしまった。床下から聞こえる嬌声を枕に、眠れるようになってしまった。我ながら無頓着すぎる性格だとしみじみ思い返す。
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