神様の見る映画

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五月のある日。 帰宅すると、もう0時だった。床下から女優の声が聞こえながらも、入浴してベッドに転がりすぐに眠ってしまった。 目を覚ますと、床下から声が聞こえてきた。まだ何か上映されているのか。部屋にかけられた壁時計に目をやる。午前3時。 おかしい。 こんな時間まで映画をやっているはずはない。成人映画は毎日午後11時から午前1時まで上映されていた。少し延長しているのだろうか、2時間も長引くだろうか。 眠い目をこすりながら床に耳をやった。男の人が外国の言葉で何か話している。しばらくすると、男の人が聞いたこともない民謡を歌い出した。 明らかに、いつも上映している映画ではない。 普段は、眠っている間に声が聞こえてきても何ともなかったが、今日ばかりは、その音が気になった。 私は、ベッドから出て、寝間着のまま自宅から出た。五月とはいえ、深夜であれば外はやや寒い。やはり音は一階の方から聞こえる。 ちょうど映画館の入り口につくと、ポスターも窓口の係員もなく、扉に鎖がかかっているだけだった。 音は中から聞こえてくる。聞いたことのない楽器の音も聞こえる。 私は意を決した。鎖をまたぎ、扉をゆっくり開いた。来月で18歳になるのだから、と自嘲気味に思った。 実を言うと、映画を見たのは、これが初めてだ。 中は煙草とカビ臭い匂いに満たされていた。目の前に飛び込んできたのは、大きなスクリーンだった。古ぼけた映画が映されている。中東の民族衣装をまとった少年が、砂漠の中の建物を歩いている。その後、つり革のようなものに捕まり宙に浮いている。見たことのない色使いと、聞いたことのない音楽。どうみても成人向けの映画ではないだろう。
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