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次の日。
時刻は深夜2時半、とっくの前に成人向け映画は終わってしまった。暇つぶしの本も読み終わってしまった。
地面から、何か聞こえるのを感じた。
映画だ。そう確信した。
床に耳を当てる。ピアノの音と女性の声。
昨日と違い洋服をまとって外に出た。階段を降り、欠けた札のかかった鎖をまたぎ、映画館の扉を開ける。
スクリーンには、白黒の古めかしい映画が写っている。
ドレスを着た外国の少女が、洋館の廊下を走っている、窓から風が入り込んで、破れたカーテンがひらひらと揺れいてる。少女の前を、ウサギを模した人が歩いている。
「おや、また来たのですね」
思わず身構えた。昨日、私の目の前で消え失せた老人が、また立っているのだ。
「ええ……」
私は何も言われずとも、客席の通路を進んで、老人の隣に座った。スクリーンの中では、少女が洋館の階段を行ったり来たりしている。
「昨日、どこへ行ったんです?突然消えたりして……」
「私は映画館の神様ですから、映画が終わればいる必要はありませんよ」
「また神様って……脅かそうとしたんでしょ?」
「脅かそうだなんて……映画を見に来てくれる人にそんなことをする神などいませんよ」
老人はくすくすと笑う。
「それより聞きたいことがあるんですけれど」
「今日は遠慮願いたい。この映画は、まだ見たことがないからね」
老人は結局、何も言わずにスクリーンに向き直ってしまった。仕方ないので、私もスクリーンに目をやる。どこかの舞踏会を映したシーンが流れる。
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