不老不死

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不老不死

荻野目裕生(オギノメユウセイ)は吸血鬼だ。  青白い肌と鋭い八重歯の特徴から、古くから人々の間に伝わる不老不死の化け物になぞらえて、誰かがふざけて荻野目をそう呼んでいた。 事実、荻野目は、その呼称に納得していた。 ーそうか、僕は人間じゃなかったんだ。 化け物、気狂い、犯罪者、人でなし。十人に尋ねたら十人が荻野目を指さし、蔑み拒むのだ。 荻野目は本当に人間ではないのか?荻野目以外の“人間”はそうだと答える。人間が人間でないと思うものは―異物に他ならない。それは機械、それは宇宙、それは猿。姿かたちや生態が同じならば同質として受け入れられるかというとそうではないことが、歴史で証明されている。人間は、年齢や性別や肌の色や宗教が違うだけでも、どこまでも残酷になれる。砂山に立てた棒倒しのように、“自分こそが絶対に正しい”と、自分以外の要素を排他してようやく、アイデンティティという柱が独立するからだ。  だから荻野目は死んで試すことにした。荻野目はこれから死ぬのだ。死んで物語になる。誰かの思い出のなかだけの登場“人”物になる。死ぬときになってようやく荻野目の命は形になる。     
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