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中学の頃の友人が、蠍の甲殻で出来た水着を着て笑っていた。
「お前は育ちが悪い」
「お前は子供だ」
小学生の頃通っていたピアノ教室の先生や、専門学校の講師たちの全身骨格が描かれた絵画が地面に散乱していて、そのかたわらの蓄音機から、延々罵声が流れていた。
「お前は役立たずだ」
スプリンクラーで除草剤を撒く麦わら帽子の男を、なぜだか父親だと認識できた。
―ああ、やめてくれ。この大地はもともと瑠璃で出来た、たいそう美しい場所だったのに。
どこを削っても青く輝く宝石と、それから荻野目の大好きな紅茶のクッキーが出てくる、狼だけの国だったのだ。
荻野目は怒りに任せて、それらの邪魔者を全てを噛み千切った。仙人掌からは血が噴き出し、雨はもっとバラバラになって、蠍は蛆虫に集られ、絵画は断末魔を上げ、父親の腹からは赤ん坊の死体が飛び出した。
荻野目は旅を続けた。
歩いて歩いて、あるとき、蓮の花をいっぱいに背負った、ひとつの山ほどの大きさの真っ黒な虎が、オアシスに浮かぶ船に乗って待っていた。
「まだいたの」
遥か頭上で、老婆とも幼女ともつかぬ虎の深い声が響いた。
虎はゆっくりと屈み、その相貌に紅い狼を映した。
荻野目は虎の鼻を嗅いで挨拶をすると、天鵞絨のような虎の身体をよじ登った。
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