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いっぽう寝ゲロによる呼吸困難や急性アルコール中毒ならば、後遺症の心配はさほどない。むしろ脳機能障害で人格が変わったり障碍者として明確に支援される立場になれば、今より生きやすくなるかもしれなかった。
荻野目はいささか酔うのに時間がかかる体質だが、まあ―最悪、金のことなど気にしなくていい。居酒屋なら初対面でも荻野目を気に入って奢ってくれる人もいるだろうし、どうせその後すぐに死ぬなら、無銭飲食で警察に追われたって、関係ない。店の人には申し訳ないだろうか。荻野目にかかっている保険金で、賠償くらいはできるだろう。
荻野目のすべては、死ぬことと、死んだあとに向かっていた。RPGで言えば死ぬのがトゥルーエンド、刑務所がグッドエンド、生きるのがバッドエンドだ。誰かが荻野目を優しく抱きしめて人間だと教えてくれるストーリーは、用意されていない。
いつものように地元を出発して、横浜線の菊名駅で東急東横線に乗り換え、中目黒で更に乗り換えて恵比寿に向かおうとして―水色の。緑だったか。そんな風な電車に、突然駆けこんだ。今日この瞬間まで、荻野目は死ぬ気は無かったにも関わらず、ふと、今夜の献立でも思いついたかのように勘が閃き、迷わず知らない車両の席に着いた。
Slipnotとギターウルフのアルバムを交互に聞きながら、荻野目は乗車時間を凌いでいた。
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