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どこへ行っても荻野目は、この自分と世界を隔てる決定的な異物感によって、何度も情緒的に殺されてきた。日常生活すらままならず、恐らく今後一生改善されないのだ。今でも逃げ出したいのに、あと六十年ばかり我慢しなければならないのかと思うと、その時の自分の精神状態を想像するのが恐ろしかった。
人間が幸せになるために生まれるというのなら、荻野目は人ではない。人間が最初から愛を必要とせず、強烈な五感を持ち共存・同化を嫌う異様な生態をしていたのならば、その定義ならば、荻野目は人間にカウントされただろう。
一種の強迫で、荻野目を狭い視野で仄暗い陶酔に取り憑かれた現代的な若者の典型だと一笑に付すことはできる。だが荻野目を嘲笑う人間の誰もが、荻野目を救わなかった。
どこかもわからぬ終点に辿り着いた。辿り着いては向こうのホームへ、また終点に着いては別のホームへ、とにかくまだ目にしていない車両をチョッキ姿の白ウサギに見立てて迷路の中をぐるぐる追い続け、とうとう、ある駅でICカードの残額が尽きた。
荻野目は諦めて、その寂れた改札口を通り、久しぶりに電車以外の景色を見た。
馴染みのない待合室のような場所を出るなり、皮膚を破くような寒さが襲った。これはちょうどいい。腕時計を確認すると、これからまだまだ冷え込みそうな時刻であった。
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