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第3章 エニシダ家の少し特殊な事情
「…エニシダさん、って素敵な苗字ですね。わたし今まで会った人の中で初めてです。珍しいですよね」
いつもこの時間、話題にはほんと困る。わたしは手許の皿に目線を落としたまま、ビーフストロガノフをスプーンで掬いながら返事も期待せずに頭に浮かんだことを適当に口にした。
片付け作業中はもう最初から一言も喋らない。こっちを一瞥もしない、空気のように扱う人を相手に話しかけても無駄な気がするし。それでも寝室で仕事をするのはどうも落ち着かないか苦手らしく、わたしが訪問している時でも構わずリビングに出てきてパソコンで作業をしてくれるようになった。それだけでもよしとしないと。
彼が集中したい、邪魔されたくないと考えてるのは自然と伝わってくる。それが当然だと思うし。だからこちらも黙々とひたすら目の前の片付け作業に没頭してる。だけどパソコンに齧りついてる彼をリビングに置いたまま、構わず廊下やバスルームのものを整理してる時なんか、冷静に考えるとこれってわたしの本来の仕事の意味からするとどうなんだろ?と疑問が生じないでもない。
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