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貧乏くじを引き当てる運しかないけど、それ以外はてんでダメだけど、でも、だからって悲観的になってたら余計に運がなくなりそうじゃん。
「えっと、シナリオ部門の進捗確認を絵コンテのほうのタイミングと……」
だから、しょぼくれたりなんてしない。
男に二股の後、振られたって、仕事で大失敗したって、朝日は昇る。寝れば、昨日根こそぎ取られたHPだって回復する。
「あ、あれ? 絵コンテの確認のタイミングは、えっと、えっと」
昨日取りまくったメモはところどころ字が解読不能で、なんとかそれを紐解きながら、電車の中で必死に復習していた。
本当にやることがいっぱいすぎてさ、昨日教えてもらったことを朝のうちに確認しようと思ったんだ。けど、それだけで、頭の中はパンク寸前。絵コンテのタイミングはシナリオより先か後かどっちなんだろう。この矢印は実績照会のほうに向かってるけど、でもさ、これって。
「須田っ」
「んぐっ」
一瞬、息ができなくなって、昨日色々詰め込んだ頭の中が大混乱すぎて天に召されたのかと思った。
「バカ、柱に激突するぞ」
「……あ」
ワイシャツの襟を引っ張って止められた自分の目の前には「さぁ、今年の夏はこの水着!」っていう清々しいポスターの、ちょうど良い感じに、男性モデルの股間があった。くそう、なんでもっとぴったりした水着じゃないんだ、なんて思うあたり、しっかり俺のHPは回復してるみたいだ。
「え? あ」
「あぶねぇだろ。何してんの、お前」
「……土屋」
そして、そんな俺が柱に激突するのを防いでくれたのは、色んな部門においてレベルが違うけど、身長も同性とは思えないほど違ってる土屋だった。
「あぁ、ギョウカンの仕事?」
俺の持っていたメモ帳を覗き込んだ拍子に、土屋の後ろに流してる色抑え気味のブラウンカラーの髪がさらりと揺れる。
「あ……うん。っていうか、土屋、この時間に会社来てんの? 早くない?」
「まぁな、営業だから。それにこの時間帯のほうが電話すると顧客がまだ外出前とかで連絡取りやすいいんだよ。お前こそ早くねぇか?」
「あー、あはは、昨日から異動だったから、早く行って少し復習しとこうかと」
「へぇ、えらいな」
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