56 恋するシーシュポス

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「お前のスマホの中はヒナさんがいっぱいなんだな……」 「ちょおお! なんだよ! そんな切ない系の顔したりして」  カッコよすぎるだろ。眉をひそめて、憂いの表情で、一心にこっち見るな! 溶けるから! マジで、この場でスライムになっちゃうだろ。 「いっぱいじゃないし」 「?」 「俺のスマホ、ヒナさんでいっぱいじゃないし!」 「へぇ……じゃあ、何が入ってんだよ。見せろよ」 「ちょ! それは! プライベートですから! ちょおおお! 待っ、待っ」  必死に抗ってるけど、意地悪スイッチが入ったらしい穂高はそう簡単に諦めてくれなさそうで。 「どうせ、ゲームの資料とかいって、イケメン画像とか、空の写真とか、動物とか、カフェアートとかなんだろ」 「違うっつうの!」  それ、後半女子のインスタじゃんか! 必死にスマホを握り締めて、ギャイギャイと騒いでた。 「それとも見られちゃまずいものとか?」 「!」 「お前、モロ顔に出るな。なんだよ、見せろよ」  スイッチがガン押しされてしまった。そして、本気になった穂高に強制拉致された俺のスマホ。返せっていっても、もう無理そうだ。  ずっと秘密にしてたのに。ずっと隠していたのに。あーあ。それこそ、あーあ、だよ。 「……お前なぁ」 「だって、撮りたかったんだもん。犯罪だけどさ、了承なんて得てないけどさ、公開はしないし、それは、俺のっ!」 「はぁ……お前、ホント」  俺の宝物なんだ。  穂高の寝顔。  可愛くない? 少し開いた唇とかヤバいだろ? 萌え詰まりすぎだろ? もう見つけた瞬間、俺、発狂するかと思ったんだぞ。 「一枚だけだし!」 「お前、ホント、俺のツボ押すの上手いよな」 「?」 「明日、俺が朝飯作ってやるから」 「へ? ぇ、なんで? 朝飯、俺」  ニヤリと笑ってた。そして、俺はときめきとドキドキで胸のところが忙しなくなった。 「俺も、撮ろう」 「は?」 「……」 「な、なな、なんで無言なんだよ。何撮るんだよ! なぁ!」
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