1 オカシモ

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 けど、思い返してみればそうだったかもしれない。クラスの委員会決めとか一番面倒で雑用ばっかのクラス委員とかさ、あ、あと、文化祭委員の委員長とか、そういうの「どうぞどうぞ」なノリで皆が遠慮するようなやつは、くじ引きで大概俺が引き当ててた。  男運も悪い。付き合った男全員に、二股をかけられて、乗り換えられてさようならってされる。全員だよ? 数人でも、たったひとりでもダメージでかいのに、付きあった男全員に漏れなく二股をかけられるって奇跡でしょ。こんな奇跡ちっとも嬉しくない。  ゲイで、男女の恋愛以上に相手見つけるのも、それが恋愛に発展するのも大変なのに毎回これで別れられるって、俺ってどんななんだよって落ち込むよ。 「あ、おかえりー。須田がやっぱり異動になるのか。そうか、頑張れよ」 「あー、はい。ありがとうございます」  同じテスト課の先輩が餞別だって、まだ未開封のガムが入ったボックスをくれた。 「大変かもだけど、須田なら出来ると思う」 「あー、あはは、ありがと」  できるよ! じゃなくて、できると思うっていう予想なのが気になるけど、隣のデスクにいる同僚、福田(ふくだ)に苦笑いで答えると、餞別にって、ジュースをくれた。今日のおやつで飲もうと思ってたんだって。これ、飲めるのか? ピンク色してるけど? ホンワカピンクとかじゃなくて、本当に本物のドピンクだけど? フルーツミックスフレーバーって、味でもないの? 香りがそうってこと? 果汁ピンクのくだものって、なんだろ。  俺、思いつかないんだけど。 「……お疲れっす」 「あ、はい。ありがと」  最後はアルバイトで週三やってくる専門学校生に声だけかけてもらった。 「とりあえず、挨拶だけしてきたら? あの人、持田さんとこ」 「あ、そうですね。ちょっと行ってきます」  一礼して、今、餞別としてもらったガムひと箱とドピンクジュースのペットボトルを自分のデスクに置くと、新たな職場へと向かった。
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