1 オカシモ

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「はぁ」  できるかな。とりあえず、今日の昼飯後に人事異動言われてよかった。この後昼飯とか、ガクブルしすぎて喉通らない気がする。  どうしよ。どうにかなんのかな。ならなさそうだけどさぁ。けど、会社の社命なんて断れるわけないじゃん。「はい」って頷く以外の選択肢なんてないじゃんか。もったいブリ子風に言うのなら、「してくれるか? って訊いているようだけれど、でも、社命ならば、それは命令でしょう? 社、命、ほら、命令のメイの字があるもの」って感じ?  あれじゃ誰も続かないよ。もう貧乏くじっていうか、地獄くじだ。  ひとり俯きながら、扉を閉めてから、また連続するように溜め息が零れた時だった。  カツーン、って、革靴らしい足音がして、パッと顔を上げた。 「……ぁ」  そこにいたのは、俺と、福田、それと、今もここに残っている、たった三人の同期のもうひとり、土屋(つちや)がいた。  俺、あんまり苦手な人っていないんだ。誰でもいいとこがあって悪いとこがあるだろ? だから、もったいブリ子にしてもさ、先入観は良くないって思うんだけど。でも、この土屋はちょっと苦手だ。  テスト課でのほほんと仕事をしていた俺と福田、とは対照的に、今、営業一課でバリバリ仕事をこなしてる土屋はちょっとさ、違う世界の人だなぁっていうか。  話したこともないし。  話合わなさそうだし。だから――。 「明日からギョウカンなんだって?」 「へっ? ぁ、うん、あっ、はい」  だから、ちょっと苦手なんだけど。 「大変だろうけど、頑張れよ」 「……」 「これ、やるよ。餞別」 「……ぇ?」  けど、その時、手の中に押し込まれた飴が可愛い? のかな、変な顔の苺星人が微笑むパッケージで、なんか、ちょっと意外でびっくりした。
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