2 地獄へいらっしゃい

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「……はぁ」  溜め息って、気持ちが吐き出した息と一緒に地面のほうに落っこちてく気がして、あんま好きじゃないんだけど。今日は零れちゃうよな。  溜め息のひとつくらい。だって――。 「……」  だって、今日から新職場だ。  もったいブリ子が俺を待っている。そう思うと気分なんて落ちるし、めげそうになる。その気持ちをどうにか引っ張り上げようと、朝の通勤ラッシュから外れるように、道の端へと移動し、鞄の中から取り出した。  取り出したのは、苺星人が変顔をしている飴玉。  それを、まるで元気になれる魔法の薬のように口へ放り込む。  土屋は同期の中で初っ端から期待されてる新人だった。十人入った中で、噂だけど、どこの部署からも来て欲しいって言われてたんじゃなかったっけ。そんで土屋ドラフトが密かに行われ、勝ち取ったのが一番の花形部署、営業一課だった。一課はメイン事業のゲーム開発関係から、そのゲームから派生したサブカル全般までと業務が多岐にわたる。つまり、すげぇ人しかない部署。  営業二課も欲しがったらしいけれど、サブ事業である映像部門だったから、会社的にはさ。  で、土屋はそこの部署が欲しがる人材で、俺と福田は……そうでもなかったため、テスト課でのんびりゲームの動作確認をする日々だった。  あまり接点もなかった。あ、いや、あの時、ちょっとだけ接点っていうか、あったな。新人研修の時。昨今のサブカルチャー講義から始まって、丸三日間。入社日から研修で箱詰め状態だった。あの時は一緒だった。十人もいたから話したりはしなかったけど。  いや、もう見た目からして住んでる世界が違ったから、話しかけにくかったんだ。  身長高くて、ルックス抜群、俺と同じようにゲーム系の専門卒らしいけど、同じ歳にはどうしたって見えない物腰。リクルート感ゼロのスーツ姿。  決して大袈裟ではなく、モデルが間違えて入ってきたのかとびっくりしたんだ。 「あ、すげ……この飴、めっちゃ甘い」  そんな土屋に頑張れって言われた。飴玉もらった。タメ口で言われたってことは、同期って知ってるのかな? 俺のこと、覚えてる?
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